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IGARASHI DESIGN STUDIO

IGARASHI DESIGN STUDIO

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JOURNAL

心地よさから
生まれるデザイン。

2022.12.01
issue. 02

ローカルインダストリー×デザイン(後編)

Design

IGARASHI DESIGN STUDIOでは、90年代から地場産業の現場が抱える課題に対して、プロダクトデザインを通してソリューションの可能性を提案してきました。この記事ではこれまで手がけた仕事から、開発にまつわる秘話を前編・後編に分けてご紹介します。

端材を活用したデザイン

―1998年には宮崎県・都城市の家具メーカーとともに端材を使った家具シリーズPURE+Pureを開発されておられますね。

五十嵐:都城市でももともと婚礼箪笥を作っていました。素材に楠を使っていたのですが、楠は防虫剤の樟脳の元になる成分が含まれています。また木自体も曲がっていて真っ直ぐでない。なので製材するとそのうちの4割は曲がっているため家具には使えない。この端材を工場の燃料として使っているケースが多いのですが、結構なボリュームです。その端材を何とか活かして製品にできないものかというご依頼を受けて、開発したのがPURE+Pureです。婚礼箪笥を作るということではなく、無垢の木を細かくカットしてパッチワークのような集成材を作り、その個性的な表情をそのまま活かして食器棚やテーブル、椅子などに展開していこうと企画を立てました。

PURE+Pureのシェルフ。無垢の木で集成材を作り、家具に発展させたもの。

―グラデーションのある木の自然な色合いが美しいですね。

五十嵐:楠は木の根元に行くほど色が濃くなったり一本の中でも木色が異なるものがあります。そのままパッチワークにすると、濃い色と薄い色のコントラストが強すぎてしまうと、派手さに少し違和感を感じましたので、表面を自然塗料で染色してコントラストを和らげることにしました。

継ぎ目がきれいにパッチワーク状になっている。

―ものすごく手間がかかっているのですね。

五十嵐:手間はかかっていますね。そもそも楠は樟脳として防虫剤になる成分が含まれているので、使う際にも3ヶ月は蒸し器の中に入れて匂いを落ち着かせてからでないと使えません。

―ここではもともと集成材にする技術はあったのでしょうか?

五十嵐:そういうわけではなかったようです。でも無垢の木の端材を使うという難題に対して、こちらが提案することは「できるだけやりましょう」と、とても協力的に進めていただきました。集成材にする際に木と木がジョイントする部分がギザギザの歯形になっていることがよくありますが、四角いパッチワーク状にしないとデザインが成立しない、というお話をしたらフィンガージョイントの部分を内側に入れてギザギザした接合部分を見せない工夫を考えて下さいました。木は素材の中で一番難しいと私は思っています。その土地の木だからこそ土地の方達の経験と知恵が工夫に活かされています。地方ですと工場も広いですし、マンパワーもある。ものづくりに対して、みなさんすごく熱心で頑張って取り組んでくださいます。地場産業で面白いのはその人たちと出会い、私がどのように編集して役立てるのか真剣勝負になるところだと思います。現代にどういうふうにマッチングできるかを考えること。それがデザイナーの仕事と思っています。

空間のデザインとプロダクトデザインの違い

―木材を素材とする家具の開発に携わられる一方で、錫でできた花瓶、風鈴などさまざまな素材を用いて暮らしの中で使われるプロダクトの開発もされていらっしゃいます。土鍋の製作で非常に有名な三重県・伊賀の長谷園さんとはビアマグを作っておられますね。

五十嵐:長谷園さんは創業が天保3年の老舗の伊賀焼のメーカーですが、土鍋以外のプロダクトを開発するプロジェクトも行っています。土鍋の土の層に空気が含まれているのですが、気化熱効果で冷たいビールをゆっくり楽しめるポテンシャルがあるということで、4-5人のデザイナーがそれぞれビアマグをデザインするプロジェクトに参加させていただきました。ざっくりした土の持ち味が出た陶器らしい陶器を自分の暮らしの中で使うイメージがなかったので、白い釉薬をかけてニュートラルに寄せて行きました。スタッキングもできて、手に馴染むように少しへこませてビール以外にもお茶も飲めるマグです。

長谷園とコラボレーションしたビアマグ。白い釉薬を外側に施し、ニュートラルな陶器をデザインした。

―家具や空間といった大きなもののデザインと、日常の暮らしに使う小さなプロダクトのデザインでの違いはなんでしょうか。

五十嵐:たとえば時計だと空間に寄せたデザインをしますが、器となるとどうしても生活に寄ったものです。ケースバイケースですが、空間に置くということが常にイメージとしてあるんです。部屋の中ではどう見えるか、とか。そういうことを無しにしてデザインはしないと思います。

富山県の鋳物メーカー能作とコラボレーションした真鍮鋳物の風鈴。風鈴というよりは、オブジェとして存在を感じさせるデザイン。

―富山県・高岡市の株式会社能作とともに花瓶シリーズを開発しておられますが、その花瓶もオブジェのように見えます。

五十嵐:能作は、もともと仏具や茶道具を作っている鋳物のメーカーです。「錫という素材は水を腐りにくくする作用があり、花瓶に適しているので花瓶をデザインしてください」という依頼をいただいて開発しました。花瓶って日常で身近な存在ですが、花を生けていない時にも空間に映えるものにできないかと考えました。それで、自然なたたずまいの りんご・いちじく・洋梨の3つのフルーツをモチーフにした花瓶を作りました。

手前から奥に、いちじく・りんご・ようなしをモチーフとした錫の花瓶。

―なぜフルーツがモチーフなのでしょうか?

五十嵐:自然の造形物はそれだけで完璧な美しい形をしていると思います。憧れもあります。でもそのままの形でなく、形のバランスをわざと崩して実際にはない形になったと思います。また、錫の製品を作る時に、本来は砂型と言って、まず模型を中心に周囲に砂を圧縮して型を作ります。そしてできた型に錫を流して製品を作るのですが、このシリーズでは砂型だと難しいと判断されたのでシリコンで型を作りました。

―五十嵐さんの柔軟な発想とデザインによって、技術革新に繋がったということですね。

五十嵐:メーカーは「デザイナーにどのように応えるかがミッションだ」とおっしゃっていましたし、ちょうどその頃シリコン型のアイデアが出てきていたようです。このデザインでもう一つ特徴的なのは表面の凹凸です。錫を製品にする際、表面をピカピカに研磨するのに手間がかかります。手間がかかるということはコストにも反映されます。私は梨地と呼ばれる表面に少し凸凹した手触りが好きだったので、この花瓶ではあえて研磨せず、表面に溝を入れて型のつなぎ目をデザインで消化させることができるのではないかと考えました。

―お話を伺っていて、クライアントが得意とすることや技術をとても生かしておられると感じられます。時に職人の手間をおもんばかるよりは、デザインを優先させることもありますか?

五十嵐:リサーチをした後にデザインの図案を作り、わからないところはご相談させていただきますが、最終的にデザインが固まらないと技術面でも不確定な要素が出てくるので、大まかにクライアントの特性を理解したところでデザインを固めています。出来上がったデザインを一緒に見て実際に作っていく上での問題点を話し合ったりします。

―ひとつのプロダクトができるまでにどれ位の時間がかかるのでしょうか。

五十嵐:プロトタイプを何回作るかによります。また、家具のデザインもプロダクトのデザインもあらかじめ展示会が予定されているので、全体のスケジュールが決まっていることが多々あります。そのような場合は1回~2回の試作を経て製品をつくります。

―無理難題を押し付けるのではなく、メーカーと話し合いを重ねる中で、少しずつ導きながらステップアップをして、結果としてメーカーの技術革新につながっているような印象を受けました。

五十嵐:プロジェクトの1回目はそう言えるかもしれないですね。でも協働が2回、3回となってくると、次はもう少しこういうことにもチャレンジしましょう、とジャンプすることもあります。いずれにせよ、1回ではお互いの良さはわからないですから、複数回ご一緒させていただけたらと思っています。

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