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IGARASHI DESIGN STUDIO

IGARASHI DESIGN STUDIO

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JOURNAL

心地よさから
生まれるデザイン。

2022.07.11
issue. 01

ローカルインダストリー×デザイン(前編)

Design

IGARASHI DESIGN STUDIOでは、90年代から地場産業の現場が抱える課題に対して、プロダクトデザインを通してソリューションの可能性を提案してきました。この記事ではこれまで手がけた仕事から、開発にまつわる秘話を前編・後編に分けてご紹介します。

課題から生まれる家具

緩やかに波打つ引き出しが特徴のTANGOは、静岡の家具メーカーとともに開発を進めて誕生した。

―いわゆる「地場産業」と呼ばれる地域のものづくりの現場で、五十嵐さんが最初に手掛けられたのが1997年の静岡ダイナミクス展だったという資料を読みました。デザイン=ローカルの課題解決というデザインの在り方が今やかなり一般的になってきましたが、90年代の終わりにすでに手がけられていらっしゃったのですね。

五十嵐:実はダイナミクス展の第1回目は、ダイナミクス事業の前身、1988年の静岡産地イメージアップ事業で、私が長年在籍していたクラマタデザイン事務所の倉俣史朗さんが関わっておられました。倉俣さん、そしてジョージ・ソーデン、内田繁さん喜多俊之さんがデザイナーとして参加されておられました。倉俣さんは当初「10年は続けるつもりで取り組んでほしい」と話されていました。その後にデザイナーとして声をかけていただいたのはとても幸運なことでした。

―では、地域をデザインから考えることが80年代から行われていたのですね。倉俣さんがおっしゃった「10年」には、何かビジョンがおありだったのでしょうか。

五十嵐:それまでアーティストやデザイナーが招聘されるプロジェクトが色々とありましたが、1回限りで終わってしまう内容が多かった。それでは物足りなさを感じていたのだと思います。静岡の担当者はその助言をしっかり真っ当するべく取り組まれたそうです。
静岡のプロジェクトは「つなぐデザイン」と名前を変えて、今でも続いています。

―静岡はどのような土地柄なのでしょう。
五十嵐:大企業では楽器や車メーカーがありますし、ものづくりの中小企業も多く、もとからデザイナーが多い県だと聞いていました。また家具の四大産地のひとつですし、東名高速道路も新幹線も通っていて名古屋と東京の中間地点として地利がよく。富士山の風光明美と温暖な気候として住まい人口の高いエリアです。家具に関しては、婚礼箪笥3点セットのうち、鏡台に特化して制作する箱物家具の技術がある産地です。

―五十嵐さんが出展された10回目のダイナミクス展では、どのような作品を出展されたのでしょう。
五十嵐:アイテム数が多かった。ダイニングテーブルセット、ワゴン、キャビネット、チェスト、棚、ミラー、ドレッサーなど30種類近くのデザイン提案をしています。この時、特に注力していたのは、白い壁面を背景に木製家具をどう見せたらいいかを考えることでした。チェストや棚など比較的に面積の大きい収納家具は程よい特徴的な見せ方を提案し、ミラーやガラスを使った小さいサイズのアイテムは特徴を出しアクセントとしてのデザインを提案しています。

フラットな木面とガラス面に葉っぱをプリントする。ガラス面は透け感を出し、光が当たると床面に葉が投影される。

―地場産業の場合、その地域が得意とする技術があるかと思いますが、デザインを提案するときに意識しておられるのはどういう点でしょうか。

五十嵐:まず現状をしっかりとリサーチさせていただくことです。得意なことでもやり方によって違いがあるかもしれませんので、また周辺の様子なども見たいと思います。そこならではの特性を見出し活かすべき方法は何かを考えます。

静岡の場合は、突板合板を使った家具や箱物家具を作る技術に長けています。静岡ダイナミクスのためにデザインしたTANGOは面材に無垢板を使い突板を貼っているのですが、表面がゆるくカーブしているので、突板を貼る高い技術が必要です。TANGOが一番難しいので約10社が参加した中で1社だけが手をあげました。その1社が曲面の処理の方法を色々とトライしてくださって完成したというわけです。

―デザイン優位というよりは地域の特性やポテンシャルを読み解いて、メーカーにはほんの少しジャンプしてもらう、というイメージでしょうか。

五十嵐:「できるけど少しハードルが高い」という提案がいいのではと思っています。

地域の特性を読み解く

―岐阜県・高山市に本社を置く飛騨産業と開発した家具シリーズ「baguette」では、曲げやカービングなど無垢材加工技術を活かし、都心の生活空間にあう家具デザインのシリーズ化することがテーマだということですが、静岡と比較すると飛騨はどのような特徴があるのでしょうか。

飛騨産業と共同開発した家具シリーズbaguette。

五十嵐:飛騨は山深いところで、東海道が通っている静岡と比べると交通インフラが限られています。ですが、古くから無垢材を扱う木工の技術がある地域なので、広葉樹・針葉樹共に扱うことができ、高い技術力に信頼が寄せられ、高山地域と共にファンを増やしています。

―地場産業の仕事を受けられる際の一番のモチベーションは、そのような地域を応援したいという思いからでしょうか?

五十嵐:それもありますが、日本人はものづくりが好きなで得意な人が多い民族だと思います。「こういうことはできますか?」と尋ねると、出来なくてもなんとか近づこうと努力してくれるのです。地域のものづくりの現場では生き生きしている人が多い。今まで知らなかった新しい発見、知る機会はその地域との縁も深まり応援する気持ちももちろん深まっていくと思います。今は、一旦立ち止まって整理し考えることが必要な時です。

後編に続く…

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